第146回下半期芥川賞

 最近は芥川賞受賞作品もめっきり読まなくなってましたけど、退院後の自宅療養中で時間もあったり、2作同時受賞かつ『共喰い』田中慎弥の記者会見がちょっとした話題になったこともあり、思い出しように久々に文芸春秋を買ってみたのでした。前述の田中慎弥『共喰い』と円城塔『道化師の蝶』の同時受賞で、対照的な両作品。後者は滑り込みでなんとか受賞に漕ぎ着けたようで、最後まで選考会でも意見が割れた掴み難い作品。石原新太郎曰く「言葉の綾とりみたいなできの悪いゲームに付き合わされる読者は気の毒」とのこと。平野啓一郎『日蝕』が受賞したときも「俺に辞書使わせすぎ」みたいな感じで、物語じゃない技巧的・構造実験小説が嫌いなんだろうね。


<田中慎弥『共喰い』>
 かなりオーソドックスな小説で読みやすい、そしてテーマがほぼセックスを巡る内容、だから下世話感満載でなおさら読みやすい(笑)。17歳の篠垣遠馬とその父親の性生活がのらりくらりと展開、しかも親父はヤリながら相手に暴力をふるう癖があり、その後釜になりかけている自覚のある遠馬は親父を軽蔑しさらに自分にも嫌悪感があるような日々を生きている(まあそこまで明確な遠馬の心情は描かれていないし、実は周辺の大人たちの関係に翻弄されている感が強いかな……)、でもとにかくエッチはしたい、そんなモンモンとしたものを抱えながら、ある日の地元での祭りを境にすべてが動くという話。後半でさらりと書かれているけれど、「我慢出来ん時は、誰でもよかろうが。割れ目じゃったらなんでもよかろうが」と話す親父の淫獣度がマックス過ぎて、女たちの仕打ちも頷ける。それにもかかわらず筆者の田中さんは童貞みたいな話が、余談過ぎるけれどもなんとも言えない愛嬌を添えている、そんな作品となっています。DT力っていうのはやっぱり大事だと再確認した次第。

芥川賞作家、田中慎弥さんがやはり童貞だった件



<円城塔『道化師の蝶』>
 なにやら語り手の「わたし」が3人いると思われる作品、メタフィクションとして成功しているのかどうかというのは不明。せめて面白いといいんだけどね、文体も硬質だし円城塔が好きな作家としてあげる安部公房からエンタメ要素を削ぎ落としたような捉えどころの無さで、まあこれが分厚くなると『フィネガンズ・ウェイク』みたいになるのだろうか。そこまで難解でないにしても、物語的な面白さばかりを求めて、小説の技巧的な事柄に関心がないと辛い目を見ると思う。



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