実践できそうな気がしてくる『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ

 自分もバンドをやっているので、学び取れることがないかと読んでみることに。サブカル本的な装丁と写真の多さで軽薄な感じがする本書ながら(笑)、簡単に読めてかつ身になる内容なので、自分も実践できそうなワクワクとした気持ちになれる良書。
 ちなみにグレイトフル・デッドと言えば1960年代から活動するヒッピー・カルチャーの代表格的で息の長いバンド(現在は「ザ・デッド」)ですが、ファンでもなんでもなかったけれど、これをきっかけにYouTubeを漁ったりしてデッド・ヘッドになりそうな予感までするという意味で、書籍まで活用してファン獲得のマーケティングに成功しているのかも。(まあ、この書籍の出版自体はバンドが仕掛けた戦略じゃないにしても、プロモーションには確実になっている)


 本書のスタイルとしては、各章ごとにグレイトフル・デッドの行ってきたバンド運営方法を紹介し、さらにその方法論を実践している他企業の例、そして読者へのワンポイント・アドバイスというような構成になっています。

 興味深い内容は何か所かあるけれど、衝撃的だったのは「コンテンツを無料で提供しよう」と「広まりやすくしよう」あたりで出てくるテーパーの話。グレイトフル・デッドは自分たちのライブを録音することを誰にでも許していて、録音するファンのことをテーパーと呼んでます。それで商業利用しない限り録音された音源のファン同士による交換なんかも認めているんだけど、バンド側は録音行為をさらに奨励するかのように、テーパーがなるだけ高音質に録音できるための専用スペースを会場のミキシング・コンソール後方に設置するなんてこともしてます。

グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ 広まりやすくしよう 実はこの録音スペース設置の経緯は、テーパーたちが勝手気ままに置くマイクの本数が増えすぎてしまったためにステージが見えないという苦情が一般のお客からあったことで取られた処置なのだけれど、普通ならテーパーを排除する方向に行きそうなところをグレイトフル・デッドはむしろ彼らを保護する方向に動いている。ここが重要なポイントで、テーパーがばらまいてくれるテープが自分たちの最大のプロモーションになることを理解していたという話。

 つまり無料の海賊版音源が出回るほど、新規のファンも増え続けるという構造で、それらを聴いた人々が「実際にライブに行ってみたい」と思うことでバンド側の収益へとつながっていくわけです。CDの売り上げだけに頼らないバンド運営というのは、ここのところの音楽業界の風潮を完全に先取りしている感じで、読んでると「うちのバンドでもやろ!」という気持ちの高ぶりが沸き起こります(笑)。まあ、いくら無料でも良いモノでない限りは広まっていかないのは分かってるけど……。冷静になって、うちのバンドの現状で考えれば、無料どころかむしろお金をこっちが払わないと録音してくれる人もいない!(笑)

 あとグレイトフル・デッドに好感を抱いた一節(長いけど)。

グレイトフル・デッドは、自分たちの音楽活動に情熱を抱いていたので、何度辛い体験をしても、粘り強く耐え続けることができた。初めて雇われたギグは、2夜連続で演奏する約束だったのに、最初の演奏があまりにもひどかったために、酒場のオーナーは次の夜の演奏を3人組の老人のジャズバンドに差し替えた。メンバーたちは恥じ入ったあまり、1日分の賃金さえ要求しなかった。しかも、あきらめるのではなく、彼らはスタジオでこれまでの2倍練習した。観客を魅了するグレイトフル・デッドのユニークなサウンドは、実はこのような長年にわたる試行錯誤と練習のたまものだったのだ。(P.253)



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