【芥川賞受賞作】『穴』著者:小山田浩子

『穴』著者:小山田浩子 芥川賞受賞作

第百五十回芥川賞受賞作、一年前の文藝春秋が出て来たので読んでみた。夫の実家の借家に越したことで始まる姑を絡めたちょっと不思議な日常譚。夫婦で田舎とも郊外とも読み取れない場所に引っ越すのだが、仕事を辞めた上での移転のため「人生の夏休み」のような状態に陥った主人公。作中で『不思議の国のアリス』がチラッと出てくるが、妻がそこで出くわす面々もまさに不思議というか不気味さを有している。庭で延々と水をまき続ける義祖父さんや、道中で出くわす謎の獣、夫の名前を呼び間違えたりする近所の奥さん。そして終盤から出てくる義兄の存在、夫に兄がいることを知らされていなかった妻の戸惑いは、しかし最後でさらなる不可解な事態に直面することになり解決されることはない。マジックリアリズム的ではあるけれど、そういう非現実的な幻想を見かねないなと納得してしまう「引っ越し先での出来事」という設定が巧いと思う。

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