12月の読書記録:『方舟さくら丸』、『デッドクルージング』

安部公房『方舟さくら丸』、深町秋生『デッドクルージング』

年末の読書は忙しかったので小説2冊のみ!かといって、一月の読書が捗っているわけでもないんだけどね。

『方舟さくら丸』:安部公房:地下採石場跡地を核戦争に備えたシェルターとしての「方舟」に見立てた主人公が、その乗組員を探すことから始まる物語。核シェルターものなんだけど、世界の終りなんていう「御破算」がそう簡単にやってくるはずもなく……、というアンチ・クライマックス。当然ながら、主人公の被害妄想めいた終末思想に乗っかってくる連中もわけありのゴロツキであって、さらに採石場跡地の有効利用に関して主人公よりも先に目を付けていた彼の父親が登場、さらにその配下にある「ほうき隊」なるいかがわしい老人組織、そしてその老人たちに対抗する若い学生勢力と、気が付けば採石場跡にはどんどん人が入り込んできてしまい、計画的にしめやかな出航を目論んでいた主人公の意図とは反して「方舟」はドタバタのスラップスティック会場へ。それが安部公房の仕組んだ巧妙な破綻劇であり、読み応え十分の傑作です。

再読して驚いたんだけど、「ほうき隊」の裏の目的の卑猥さ、こんな設定はすっかり忘れてました。対外的には老人たちが社会復帰のために清掃活動をしているだけの牧歌的な組織ということだけど、実態は採石場に入ったまま行方不明になっている女子中学生たちを狩る「女子中学生狩り」を目的とした変態老人たちの集まりになってしまっているというね。「雌餓鬼の扱いや、隊員の説得は、慎重に検討しなければなりません(略)」「「こんな話、よく黙って聞いていられるな」っていうくだりは、誰が女子中学生を使って人類の子孫を残すかの優先順位を決めている会話なわけで、問題の女子中学生たちが不在のままヤルことに胸を高まらせる老人の姿のグロテスクさが、もう凄まじいわけです(笑)。

それと童貞主人公の「モグラ」の倒錯した感じも素晴らしいです。人生で一度も女と関わったことがないのに人類の選別・生存に一番躍起になっている滑稽さもあるし(生き残ったところ無力だろみたいなね)、たまたま方舟に乗船させてしまった女のスカートの中身や尻を触ることの妄想ばかりしてて、どうしようもないわけです。一度、女性としっかり交際すれば、方舟で人類の一部を背負って生き延びようなんていう妄想には取りつかれないんじゃ……、っていうことも織り込んだ上での素晴らしい人物造形。いや~、こういうの好きだなあ(笑)。安倍公房って確実に足・お尻フェチだとは思いますよ、あと「女に恨みがあるよね」とも言われたりしてるみたいです。

『デッドクルージング』:深町秋生:「このミステリーがすごい!」大賞受賞の深町秋生氏による超近未来の国際亡命アクション小説。『ヒステリック・サバイバー』しか読んだことないけれど、当時よりも暴力描写に力が入っている感じがします。人間模様・組織関係も綿密かつ入り組んでいて、読み進めるうちに立ち上がってくる物語も壮大なスケールへ。でも、2015年の日本は、ほとんどがスラム化した無法地帯みたいに描かれてますが、まあ政権交代を果たして経済立て直しに梃入れし始めた現実でこの展開は無いかな……、という印象ではあります。



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