村上春樹『女のいない男たち』:スピリチュアルな主人公

村上春樹『女のいない男たち』感想・書評

村上春樹と言えば、最近ではノーベル文学賞受賞の期待が年々高まる作家という話題が先行するばかりで、あまり作品自体の評価が聞こえてこない気がしますが(ここのところ長編出してないからかな……、でもこの記事書いている途中で知ったけど明日2/24に『騎士団長殺し』という長編が発売されると知り、かなり驚いてます笑)、『東京奇譚集』以来9年ぶりとなる短編集が文庫版になって発売されていたので読んでみることに。

春樹文学の読みやすさ

自分が学生のころは春樹作品に漂う軽薄さが苦手で、「これは純文学じゃないよな~」なんて思いながら読んでましたけど、今となってはこのライトさがむしろありがたいという(笑)。時間がなくてもサラッと読める、前後関係を忘れてもすぐに内容を把握して物語に戻ることができるっていうのは、春樹文学の強みでありますな。

スピリチュアル小説

でも、主人公が達観し過ぎてるきらいがあるのは相変わらずで、「ああ、これはスピリチュアル小説というジャンルだ」と勝手に名付けてます。で、この主人公であるすべての「僕」たちの達観した思考回路が、春樹文学の持つ特有の軽薄さのもとである気がします。

話が面白くないというわけではないけど、実質的に身になることは何も語っていないというか、まあ身になるものを求めて純文学読む人間もいないだろうけど、それにしても読了後に物語を反芻してみると一体何が要点だったのだろうかとクライマックスの不在感に戸惑うこともしばしば。

実用書じゃないから、文学は物事の真ん中を射貫いてはいけない、その真ん中は読者の想像力のために残しておかなくてはいけないなどと言われますけどね。ふわふわと何かを感じ取る、スピリチュアルな読了感が強いです。どの作品の主人公も、「僕」が達観し過ぎてて内省とか感情の発露がちょっと弱いから、スピリチュアルというか宗教めいてくるのかもしれないでえすね、「なんでも受け入れてしまう聖人のような人」という意味で。


寝取られた男たち

ということで、前置きが長くなってきたので本作『女のいない男たち』についてなんだけど、予備知識なしに読んだら最初の2編『ドライブ・マイ・カー』、『イエスタデイ』は寝取られ・疑似寝取られを題材にした物語で意外でした。『ドライブ~』の方は間男と一緒に酒を飲みに行くというスリリングな展開、でも浮気相手のことを「たいしたやつじゃない」と結論付けることしかできない主人公のモヤモヤとした決着のつけ方が、むしろリアルで良いかもしれないです。

『木野』は奥さんに不倫された男の話で、離婚後にバーを開店したり、そこに猫がやってきたりとデティールも豊富で印象的な一遍。象徴的なものとして蛇が出てきたりと、民話的で多和田葉子の作品のような雰囲気も?最後に主人公の心の動きがあるという意味でも、読み応えの感じられる作品でした。

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追記2/23 23:15
ニュースで『騎士団長殺し』の発売直前の中継を本屋から放送してますね、相変わらず凄まじい人気というか、ハルキストが盛り上がっているだけなのか。でも初版が発売される前から重版が既に決定しているとの話。

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