毎日格ゲーを8時間練習する東大卒のプロゲーマーときど、「8時間仕事をしている」と置き換えれば大したことはないとサラッと語られているが、それでも何か異質な驚きがある。ちなみに、『勝つための確率思考』の著者で東大卒ポーカー王者である木原直哉氏も毎日10時間ポーカーをやるらしい。
驚異的な練習量と分析能力で世界のゲーム大会における優勝回数が世界一を誇るときどだが、インタビューなどでよく尋ねられる質問があるという。「東大まで出て、なんでプロゲーマーになったのか」という誰もが思い浮かべる疑問。それに答えるため、むしろ彼自身が答えられるに至るまでの紆余曲折が綴られたのが本書の構成となっている。
ときどのゲームスタイルは「IQプレイヤー」、「冷徹な合理主義者」などと評され、いかにも勤勉で知的な感じが伝わってくる。実際、勝つための努力を厭わない彼は、大学受験期間中も朝10時から19時まで勉強した後に、ゲーセンに移動して23時までゲームを続けるという驚異的な「切り替え能力」を見せる。しかも、その中で受験とゲームの共通性を発見し、「最短距離で成果をつかむための技術」や、「偶然を見逃さない」ことが重要であるとの認識を強める。その成果は東大へ合格した後に入った研究室で結実し、そこで書かれた論文が国際学会で賞をとるという大金星をあげる。
このように書けば完全なるエリートにしか思えないが、そこで再び「東大まで出て、なんでプロゲーマーになったのか」である。東大卒のエリートであるならば、医者や弁護士それに大学の教授やら官僚になったりするはずではないか、それなのにどうして日本では馴染の薄い「プロゲーマー」なるものになる決意をしたのか。そこは本書を読んでのお楽しみ!ということだけど、決断する上では多くの人の意見を仰ぐべきといった合理的な考え方に基づき彼は行動を起こす。そして、その意見を仰いだ人の中には、日本初のプロゲーマーという道なき道を切り開いた大先人であるウメハラも登場、二人の関係性まで伺い知れる内容になっている。
自己分析的な言及が多いことも特徴的な本書、「ひとつのことにとことん没頭する僕の性格も、没頭すればそれ以外のことを考えずに済むというメリットをにらんでのことではなかったか」という内省は、けっこう多くの人が思ったことのありそうな内容だけど、ときどの場合は没頭の仕方が半端ではないので、意外性があっても面白い。そんな没頭の仕方で国際学会で受賞しちゃう!?みたいな(笑)。その他にも色々な自己分析があるのだけれど、中でも一際目を引くのが、ときど自信が認めたくないと書いている「誰かがいないと火がつかない」という部分。情熱がある人からその熱量を分けてもらわないと焚き付けられないという自分の性格的弱点を分析した内容だが、実はこの「情熱」という単語がプロゲーマーへと通ずる最重要キーワードになってくる。そして情熱を持って真剣に取り組んだことは絶対に無駄にならないといった考察も、「マーダーフェイス」の異名を持つときどからは考えられないほど人間賛歌的で好感が持てる内容だった。
何かに真剣に取り組むと、たとえそれがゲームであっても、いつの間にか、成功するための「型」のようなものが身につく。これが実は、まったく別のことに生かせる「応用力」のタネなのである。自分では気づかなくても、何かを真剣にやっている人は、他の何かで思わぬ成果を上げることがある。意図せずとも、身につけた型が応用力として開花するのだ。P.91