メイル・ザルチ『発情アニマル』:想像以上の緻密な構成

メイル・ザルチ『発情アニマル』

復讐の鬼と化して斧を片手にボートに乗って迫ってくる主人公のシーンが恐らく名場面として知られるレイプ・リベンジ映画の金字塔『発情アニマル(悪魔のえじき)』(78)。『鮮血の美学』(72)、『リップスティック』、『ウィークエンド』(76)と70年代に起こったレイプ・リベンジ映画の潮流の中では後発気味で流行に乗り遅れている感もあるけど、監督としては便乗しているつもりは無いのか「レイプされた女性を助けて警察に連れて行ったものの形式的な調書を取るだけで同情が無かったことにショックを受けて本作を撮った」といった撮影動機を明かしている。それゆえの娯楽性の排除なのか、とにかく『悪魔のいけにえ』にも通じる淡々とした妙なドキュメタリズムが貫かれている。通じるというか、そもそもかなりの影響下にあるらしいことが見受けられて、レイプ犯から逃げようと主人公が森を駆け抜けるシーンもレザーフェイスが追ってくる場面へのオマージュ感が溢れるし、ボートのエンジンを執拗に轟かせる演出もチェーンソーの聴覚的な恐怖を再現したかったのだろうなという印象。

あらすじ
大都会ニューヨークを活動拠点とする女流作家ジェニファーは、長編小説執筆のために田舎町へと一か月の長期滞在をする。そこで偏見と野獣性に満ちた4人のごろつきに目を付けられて、残忍なレイプをされてしまう。復讐心に燃えた彼女は皆殺しを決意する。


前半は「レイプ」で後半は「復讐」という単純明快な構成のわりには尺がある。というのも、チンピラに付きまとわれて一日3回も強姦される羽目になるからで、一人が犯したら一度リリースして違う場所に追い込んでからまたヤルという非道っぷり。最後のレイプでは、命からがらの体で帰宅するジェニファーを彼女の家で待ち構えてから再び犯すという完全にサイコ化した若者たちの姿が描かれている。3回も場面が変わってレイプされると聞くと「ん?」という感じだが、それなりに必然性のようなものがあって、娯楽も何もない退屈極まる田舎で若いチンピラが性犯罪に徐々に慣れて溺れていく様子を捉えようといった確信的なものが感じられた。メンバーの一人である頭の少し弱いメガネ君の童貞を卒業させてやるという当初の目的が集団レイプにエスカレートし、最後は証拠隠滅を図り殺人未遂にまで発展してしまう群集心理的な狂気の奈落へのステップは怖いし説得力が案外ある。悪趣味作品としてレイプ・復讐シーンそのものがクローズアップされやすいけど、若者たちがジェニファーを追い回して3回にもわたって強姦を犯してしまう過程は思っていた以上の緻密さで構成されていた。

監督が実際に体験したというレイプ被害者へのおざなりな警察の対応、その怒りが詰め込まれているのであろう4つの復讐劇の中では、若者グループを扇動していた主犯格のチンコをナイフで切断するシーンが出色の出来栄え。風呂場で切り取ったあと、さっそうと部屋を出て鍵を閉めてから犯人がのた打ち回って出血死するのを平然と待つジャニファー、その表情には静かな怒りがメラメラと燃えている。さすがにバスター・キートンの姪孫だけあって語らずして物語るのが上手いといったところか。死後の主犯格の映像は「おっ!」という生々しさ、最後の湖畔での復讐は若干のチープさがあるけれど、総じて評価は高いしトンデモ作品の枠だけに収まらない力作と言えると思う。ちなみに一般上映の予定がキワド過ぎる内容のためにピンク映画として配給された日本では、エロ目的だった観客の度肝を抜いてアレを縮こまらせたという話。


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発情アニマル(1978)
DAY OF THE WOMAN
I SPIT ON YOUR GRAVE [米・98分]
悪魔のえじき(ビデオ)
女の日(TV)
発情アニマル アイ・スピット・オン・ユア・グレイヴ1978(リバイバル時)

監督: メイル・ザルチ
上映時間 101分
製作国 アメリカ
公開情報 劇場公開(グローバル)
初公開年月 1979/06/30
リバイバル →『発情アニマル』上映委員会-2012.6.16
ジャンル サスペンス/エロティック

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