プラッチャヤー・ピンゲーオ『チョコレート・ファイター』:監督はキャスト・クラッシャー

チョコレート・ファイター

ワイヤーアクションを一切使わずに役者の身体能力オンリーで勝負をかけるプラッチャヤー監督、そんな彼はいつの頃からか「キャスト・クラッシャー!!」の異名で呼ばれ映画界から怖れられる存在となった……ってなことは決してないんだけど、最後にエンドロールと共に流れるメイキングを観たらそういった狂気の宿った命名をしたくなる気持ちもわかって頂けるかと。面白い映像をキャメラに収めるためなら安全基準なんてクソ喰らえの狂犬マインドが、エキストラたちをビル壁面から地面に向けて多段式にぶつけて落とすというエグイ演出へ向かわせているとしか思えない。こんな行き過ぎた娯楽至上主義がいつかキャストを殺してしまうのではないのか!とポテチ片手にお手軽糾弾。「死人を出してしまうかもしれない撮影現場に一番近い!」という意味においても今後ともチェックし続けたい監督とそのメイキング映像なのであった。

ストーリー
現地マィアVS日本ヤクザの抗争が激化するタイ。ヤクザであるマサシ(阿部寛)とマフィア側のボス・ナンバー8の女であるジン(アマラー・シリポン)は密会を繰り返し、ロミジュリ的禁断の愛によってゼン(ジージャー・ヤーニン)が生まれる。ナンバー8の怒りを買ったジンはマサシを日本へ逃がすと同時に自らはマフィアを去る決断をし、子育てに専念し始めるものの重い病気にかかってしまう。脳の発達障害がありながらも、目で見た体術を吸収できる特殊な能力を持つ娘のゼンは、母親の治療費を求めて彼女がマフィア時代に貸していた借金の回収へ乗り出していく。


『マッハ!!!!!!!!』、『トム・ヤム・クン!』も観た気でいたけど、実際に鑑賞していたのは『カンフー・ハッスル』とか『少林サッカー』など全部チャウ・シンチー作品だったわけで、つまりこの監督の作品は一本も観てないじゃん!という恥ずかしい勘違いの発見と共にプラッチャヤー・ピンゲーオ監督初体験となった本作。個人的にカンフー映画はお腹いっぱいになりやすい体質なのか、そう頻繁に食指が動くものではないけど、たまに猛烈に食べたくなるジャンクフード的な中毒性がある感じで……、まぁ早い話がこのジャンルあまり詳しくないです。

で、詳しくないと自認しつつも、やっぱりワイヤー・アクションなしであそこまで闘うジージャー(池脇千鶴に激似!)は凄いの一言、撮影前にみっちり4年間トレーニングして撮影も2年かけているという。好きなスポーツはムエタイ、テコンドー、カンフー。日本の武術・体術は入ってないけど、『チョコレート・ファイター2』は日本ロケがあるそうなので、もしかしたら空手あたりに興味持ってくれるかもね。というか目で見た動きをコピーできるキャラクター設定で、ブルース・リーに感化されたスタイルで格闘するシーン(主に奇声と顔芸)があるのに、肝心のリーの映像が著作権の関係で映せなかったという残念な裏話があるのだそう。代わりに『マッハ!!!!!!!!』からトニー・ジャーのフラッシュバック映像を引用するしかなかったというのは、なんとも手前味噌なトホホ話。ゼンがテレビを見ているシーンでリーの怪鳥音だけ鳴らして間接的に暗示させているらしいのだけど、それはカンフー映画ファンでないと気づくことすら出来ないと思う。

チョコレート・ファイター
チョコレート・ファイター
肝心の格闘シーンに関しては、撮影期間が長かっただけあってかなりボリューミー。しかも監督がインスパイアされたであろう作品からの影響のせいか、どれも演出の雰囲気が違って見飽きない(これは散漫な印象にもなりかねないけど)。個人的には食肉工場のあの赤くて粗い映像に、古き良きの懐かしさとノスタルジーを感じさせられて好印象だった。で、冒頭に書いたキャスト泣かせのビル側面での闘いが最後に待ち受けているんだけど、面白さとかじゃなくて「本当に死んじゃわない?」という心配が先立つインパクト、血潮で真っ赤に染まるスプラッターとかとは違う鈍い痛みが観終えた余韻として残る感じ。最後のメイキング映像では、入院した役者を出演者たちが見舞う和気藹々とした雰囲気を映して終わるんだけど、これがなんのエクスキューズにもなってなくて怖いだけというね(笑)。本当に出演者を殺したりしないように気を付けてください、監督!


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チョコレート・ファイター(2008)
CHOCOLATE
監督: プラッチャヤー・ピンゲーオ
上映時間 93分
製作国 タイ
公開情報 劇場公開(東北新社)
初公開年月 2009/05/23
ジャンル アクション/格闘技
映倫 PG-12
この蹴りに世界がひれ伏す!!!!!!!!

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