平野勝之監督『監督失格』:本当に失格かもしれない

監督失格 平野勝之監督

考えてみると、ナチュラルにネタバレを織り込んだ映画レビューばかり投稿していて、今さらながら読者に警告もせずに小規模なテロリズムをずっと起こしていたことに気が付いたのは、この『監督失格』という作品についてもいつものように山場というかネタバレ部分を書こうと思ったからなのだけれど、それではなぜこの作品に限ってそんなことに自覚的になったか、いつものようにオチをあっさりと書くことはせずに躊躇したのかというのは、それをすると作品の強度がほとんど無くなってしまうから、ということに尽きるからだと思う。

……まあ、でもやっぱりネタバレすると、「林由美香の自殺現場であるマンションの一室に最初に踏み込んで遺体を発見する」という映像が収められていて、「ちょっとインパクト強すぎて何のことか分からないです」状態へ突入、むしろ終盤の林由美香に対する監督の思いとか蛇足じゃないの、と個人的にはモヤモヤしてしまうものがあった。人の死を商用利用して自分の気持ちを整理するなよ、というのが素直な感想だろうか。

平野監督の処女作に主演した女優であり元カノでもあり、監督として撮るべきものが撮れていない故に「監督失格だね」というトラウマの烙印を彼女から押されたりで、とにかく愛憎入り混じった複雑な関係性と思いがあるのだろうけれど、そういった平野監督の思いと「林由美香の自殺現場」を映すことは別なのではないだろうか。二人の古くからの関係性の土台(というか監督的には十字架を背負っているのかな)があってこそ仕上げることのできた作品とも考えられるけど、むしろ大切な間柄であるほど大事な人の自殺現場なんて映せないし、そんな扱いをして彼女が報われるとは思わないのではないだろうか。

鑑賞前まで「林由美香」のドキュメンタリーだと思い込んでいたけれど、これはあくまで平野監督が主体の作品であって、だからこそ彼の気持ちの浮き沈みもかなり描かれている。それで思ったけれど、やっぱり「林由美香の自殺現場の発見映像」を使うに至った監督の心理は、作品内では「彼女が本当に好きだった」ということに監督が気づく方向でまとまっているのだけれど、実際のところは商用的な素材として扱うことで過去のセンチメンタリズムとの決別を図ろうとしたのではないかと思えた。大事な人はもういない、ずっと考えていてもしょうがない、それならいっそうあの映像も使って気持ちを整理してしまおうか、ってここまで単純な構図ではさすがにないと思うけれど、「林由美香」の死を端的に伝える以上の思いが盛り込まれているのは確かなことだと思う。遺体を発見して涙も流さすに通報できる人間が、最後に狂気に陥ったようにして夜の街を一人で自転車を全力疾走させる、しかもその映像を自ら撮ってオチをつける、っていう戯画的に誇張された構図を再構築しようとするのはドキュメンタリー作品ならばなおさら監督失格だろうし。

監督失格 林由美香
でも、林由美香が幸せかどうか尋ねられるシーンがあって、あんな思い出(というか映像)が残っていたら、そりゃ引きずる気持ちもわかる。本当に美しいと思いますよ、ああいう瞬間って。ふつうは脳内再生→脳内補正の繰り返しで美化されていくもんだけど、平野監督はこの映像を持っているから自分で補完する必要ないし、しかも映像そのものがこれ以上ないぐらいに淡く切ない雰囲気だからね、こんなものを何回も編集のために繰り返し見ていたら確かに狂ってくるかもしれない。

幸せですか?
うん、幸せです
ほんと?
ほんとだよ




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監督失格(2011)
監督:平野勝之
上映時間 111分
製作国 日本
公開情報 劇場公開(東宝映像事業部)
初公開年月 2011/09/03
ジャンル ドキュメンタリー
映倫 G
しあわせなバカタレ。

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