未来型のネット主体による音楽活動

未来型サバイバル音楽論―USTREAM、twitterは何を変えたのか 津田 大介

 1998年のミリオンセラー28枚、総生産楽6075億円をピークに年々CDの売れ行きが減少傾向をたどる昨今、収益も激減している音楽業界にあって、それでは果たしてアーティストにとって「メジャー」であることに意義はあるのかな?と感じたので少し調べてみました。「音楽で生きる=メジャー・レコード会社からデビューする」という発想だけが全てでは無くなってきているのかもしれない……、といった事態は既にネットで実際に見られる現象になりつつありますし「メジャーとかレコード会社とかいらない」なんていう急進的な意見もあったりしますが、そんな風潮を改めて強く意識させられる記事をいくつかご紹介してみます。(以下、2009年ぐらいからのネット上にある記事を抜粋しています)


CDが売れない、レコード会社の厳しい現状

 

坂本龍一氏に訊く、これからの音楽のかたちと価値とは(2009年09月01日)

音楽配信という形態は今後も普及こそすれ、少なくなることはないと思います。今後は主流は音楽配信で、CDやレコードはコレクターズアイテムみたいな位置付けになっていくんじゃないでしょうか。

 

ソニーが米国のCD製造工場を閉鎖、音楽業界における縮図( 2011年01月18日)

 このほどソニーはアップルの「iTunes」に対抗すべく、音楽配信サービス「Music Unlimited」を開始。業務拡大のために、ソニーはワーナーミュージック、ユニバーサルミュージック、EMIミュージックおよび主要音楽出版社とコンテンツ使用許諾契約を結んだ。

 

CDが売れない、でも音楽産業は「活況」の理由 「レコード」よ、今までどうもありがとう(2011年01月20日)

 98年から2008年という先ほどの10年に何が起きたのか、この数字を見てほしい。インターネットの人口普及率である(総務省「通信利用動向調査」)。98年に13.4%にすぎなかった利用率が、75.3%に達するのだ。つまり98年には「少数派」だったネット利用者が「多数派」に逆転したのが、この10年間なのだ。こちらの数字を見ても、「CDの後退」は「音楽需要の後退」でもなんでもない。「音楽を消費者に運ぶメインメディアがディスクからインターネットに交代した」だけ、あるいは「インターネット、DVD、ゲームソフト、パチンコ機などに多様化した」ことが窺える。

 1998年と2008年を比べてみよう(インタラクティブ配信のみ99年から)。

「オーディオディスク」   396億1000万円 → 205億1351万円

「インタラクティブ配信」   3億3000万円 → 88億9105万円

「ビデオグラム」      76億7849万円  → 174億8166万円

 

  2009年以前からも、当然こういった内容は語られていたとは思いますが、渋谷HMV閉店ニュース(2010年8月22日)あたりから、誰もが「あぁ、本当に音楽業界って斜陽業種なんだ」と実感を伴って感じたはず。娯楽の多様化・一般家庭へのネット普及とそれに伴う音楽データ配信の利用者の増加etcとCDが売れない要因は複合的ですが、とにかく売れない事実は数値が如実に表していて否定のしようがない感じです。

 そして、これはつい先日のニュースですが、ソニーは米国のCDプレス工場を閉鎖してしまった……、やはり限界なんだろうなぁ。CDの存在自体は、もうマニアックなコレクターの蒐集アイテムとして骨董品的な地位に甘んじる他ないことが予見されています。そして時代は、ほぼ完全に配信形式へと移行してしまう、この流れはもう押し留めることは出来なさそうです(押し留める必要もないですが、僕は未だにCDで聴くのも案外好きだったりします)

 ちなみに、CDが売れない、でも音楽産業は「活況」の理由の記事では、『(レコード会社・レコード小売店は窮地に陥っているが)作詞家や作曲家、歌手、演奏者などに支払われた「著作権使用料」は逆に増えているのである』という少し意外性のある内容で、CDが売れない=音楽産業が不況とは単純に言い切れないことを主張していますので、詳しくはリンク先をご覧ください。

レコード会社の役割と不要論など

 

 音楽業界が部分的には未だに活況があるのかの議論はさておき、レコード会社を筆頭にCDを取り扱う業種に関しては絶対的な危機的状況に陥っていることが確からしいことは、どの記事からも読み取れる内容です。では、音楽業界の今後の役割という側面について書いている記事を見ていきましょう。

2010年代、ネット音楽はどうなっていくのか?(2010年01月05日)

四本:「音楽配信は2008年から頭打ちで、売上は900億円くらい※3。だから最後はこれくらいの規模で落ち着く可能性もある。ただメジャーをメジャーたらしめているのは、プロモーション予算です。それが減っている上に、肝心のテレビが弱体化している。もうメジャーの意味なんかなくて、選択可能な流通チャンネルのひとつでしかない。

(…中略)

広田:「そうやってコンテンツの溢れる時代になって、課題はマネタイズの方法でしょうね。  メジャーシーンは市場はシュリンクしつつも、一定のボリュームは残ると思います。それとは別に、ネットサービスの発達で、アーティスト自身と聴き手が直でやり取りするケースがより増えてくると思います。レコード会社が担っていたPRの役割も、動画共有サービスで視聴版を上げたり、Twitterで聴き手と感想を交換したり、ニコ生やUstreamでライブ配信したりといった感じで、簡単にできてしまう。というか、もうみなさんやってますね(笑) そうしてファンを増やして、CDやライブなどで人を集めて食べて行けるくらいになれれば理想なんでしょうけど。」

 

ネットに強いCDレーベル「LOiD」も消滅迷走する音楽ビジネスに活路はあるか【前編】(2011年01月15日)

―― それ以降、音楽制作が個人でも可能になり、レーベルの機能も徐々に個人側に移ってくる……という過程を生で見てきたと思うんですが、業界側にいてそれはどう感じましたか?

村田:「僕は元から言っているんですけど、僕はこの業界に入ってからずっと、なぜレコード会社が存在するのか不思議でしょうがなかった。それは最初から疑問だったから」。

―― それはどんな理由ですか?

村田:「muzie時代に、ある程度業界の仕組みを知ったわけですけど、その時に自分で調べたら自分でやれる方法が見つかるわけですよね。」

―― ネットのない時代は、まずそこがベールに包まれていたわけですよね。

村田:「それを知ってしまえば、なぜそこにレーベルが必要になるのかという話になると思うんです。」

―― とはいえレーベルの機能としては、プロモーションのような個人ではできないものもあるわけですが。

村田:「ただ、メジャーでも売れている人はそれなりにいるけど、まったく売れなくてつぶれていく新人なんて昔に比べたらよっぽど多いわけですよね。」

―― 新人にかけられる予算はない。

村田:「だったら(予算は)売れるタイトルに集中しますよね、ということです。いまコンテンツ業界はどこも自転車操業で、漫画も映画もゲームも大変なわけじゃないですか。出版も同じだと思うんですけど。」

 

 レコード会社に所属するトップアーティストの稼ぎで新人を育成するというピラミッド構造を維持することも難しくなってきてしまい、テレビCMとタイアップするという手法も視聴者数の低下に伴い廃れてPRの機能が無くなってしまった。レコード会社を叩きたくて、こういった記事を集めているわけでは全く無いですが、レコード会社が今までのシステムを見直す時期に差し掛かっているんじゃないかなと、外から眺めていても強く感じられる事態です。

 それで、ここからは音楽活動している側の視点に移りますが、大雑把に話を展開してしまうと、早い話が「メジャーじゃなくても音楽活動は楽しみつつ、しかもマネタイズすることが出来る」可能性が見えてきているということで、twitterやUSTREME(YouTube・ニコニコ動画)などのサービスを利用して一定のファンを獲得、その上で音楽配信で楽曲を購入してもらうことで生活が成り立ってしまうアーティストもいるという実例が出てきています。その筆頭が(ボカロ関連のPの方々は今回は省きますが)、まつきあゆむさんだと思います。しかし誰でも彼のようになれるというはずもなくて、なかなかシビアなこともインタビューで話しています。

著作権は自分で決める 音楽家・まつきあゆむの方法論(2010年02月06日)

『必然的にいい音楽しか残っていかない』

まつき:「力技で売る方法が通用しなくなっていくわけじゃないですか。CMにいくらかかっているとか、テレビでよく見るとか、そんなの関係なしに判断してもらえる時代になる。すると必然的にいい音楽しか残っていかないと思うから

 

 要するに、ネット上でレーベルの力を借りずに独力で活動する場合、誰でも気軽に始められる反面、レコード会社による力技のPRやプッシュが無い上に、動画や音源へのアクセス数から本当に支持されているのかどうかは分かってしまうので、楽曲が持つ良さや人を惹きつける本質的な魅力がない作品というのは淘汰されてしまうだろう……、という話になってくるのでしょう。メジャーにせよネットで活動するにせよ、人に支持してもらうって大変なことです、やっぱり世の中ってとても厳しいですね!

 でも、ここのところmyspaceとかustで単に流すだけでなく、それをマネタイズすることを後押しするサービスが増えてきているのも事実。楽曲の良さやアーティストに魅力があってファン獲得に成功しているのだとすれば、個人配信によって収益を上げることも可能かもしれない、そんなお手頃で分かりやすい世の中が見えてきているし、それにワクワクしている人たちが増えてきている空気感が伝わってきます。アーティスト側のリスクはほぼゼロなので、何か作品があるのならどんどんこういったサービスを活用してみるべきだと思います。(注:各サイト共に運営スタッフによる審査に通過しないと作品販売は出来ません、ネット配信だからってやっぱりそんなに甘くはないんだぜ!でもワクワク感はあるよね!)


nau

8:2(みなさんに支払ってもらったお金の20%を運営費としていただいて、残りの80%をアーティストに支払うことにしました)とデータ形式なら音楽だけではなく、あらゆる作品を配信することが出来るシステムが売りのnau。




DIY STARS

100%に近い売り上げバックで、売上金額から決済代行手数料(5.5%~)、振込手数料などを引くのみ。まだβ版で一般募集は開始していません。

ニューミドルマンの必要性

 レコード会社の衰退と個人がネットで活動してマネタイズするという流れで見てきました。もうレコード会社とか無しで、個人配信で十分だよね、という論調に近いことを書いてきましたが、ここで最後に「ニューミドルマン」というものの必要性について『未来型サバイバル音楽論』から引用します。ちなみにミドルマン=エージェント=仲介人、代理人のことです。

津田:「(中略)アーティストがMyspaceで直接プロモーションして、音源はiTunes Storeで売ればいい、インターネットで全てをまかなえる、という一種「原理主義的」な人も多いです。このような考え方について、牧村さんが冷や水をかけるとすれば?」

牧村:「(中略)結局のところ、クリエイターがリスナーとダイレクトに結びついていて、しかも製作者から、プロデューサーから、ソングライターから、全てを一人でこなすなんて、それこそ「幻想」なんですね。(中略)先に紹介したまつきさんの何から何まで自分ひとりで行うという事例は、先進的な試みで成功していますが、全てのクリエイターがこのシステムでうまくいくわけではありません。」

『未来型サバイバル音楽論』P48~P49

 

 ということで、誰もが一人で完結するレベルの活動をネット上で展開できるのかと言うと、労力の多さの面から考えて現実的には厳しい。そこで本書で提言されているのが「ニューミドルマン」の存在で、中間搾取と揶揄されたりもしたあり方ではなくて、アーティストをしっかりとサポートする存在としてのミドルマンの活躍が今後は重要になってくるという話になっています。しかし、業界的な意味だけに留まらず、例えばツイッターの呟きが伝播して売り上げにつながることや、ニコニコ動画のファンの存在も、ある意味では「ニューミドルマン」と呼ぶことが出来るといったことも書かれています。この「ニューミドルマン」の定義は本書だけからだと少し汲み取りにくいですが、下記のサイトにも定義が書かれていますので参考にすると、幾分わかりやすくなると思います。

ニューミドルマンが資本主義市場を進化させる

 以上、色々な記事を参考にしつつ長々と書いてきましたが、レコード会社を通さずに個人で音楽配信をして売っていく流れに関しては、これからもっと普及していくだろうという予感がします。その上で、クリエイター自身も作品をどのようにPRしていくべきかを考える機会も増えるだろうし、色々な面でクレバーさが求められるようになってくるのだと思います。でも、『未来型サバイバル音楽論』に書かれているように「世の中がざわざわしている」(←お気に入りのフレーズ笑)感というのは確かにあって、何か革新的な時代に突入しているのだなという楽しさはあります。詳しくは本書を読んでみてください、非常に参考になる内容の豊富な良書で、業界人・クリエイターにとって必読です。

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コメント

  1. […] This post was mentioned on Twitter by rock-on, seiji. seiji said: 日記更新 未来型のネット主体による音楽活動 http://bit.ly/e2DJtD […]