2chでも最恐といわれる伝説の日本映画『震える舌』を観て涙する。

 2chのカルト映画や日本ホラー映画関連スレでも常に圧倒的な支持を集めて関連スレッドが山のようにある野村芳太郎監督の『震える舌』(原作:三木 卓)が2011/11/23に初めてDVD化されたとのこと。amazonでも結構プッシュされていたので買ってみようかと思ったんだけど、ちゃっかりTYUTAYAにもあったので、数年来それとなく探していた作品が「やっと観れる」と喜び勇んでレンタルしてみた。

 周知のとおり、筋書きは「泥んこ遊びで破傷風になってしまった娘と家族の闘病記」で医療ドラマというジャンルに分類されるものの、破傷風の強烈な発作シーンが繰り返し何度も描かれることで、観ている側をジワジワと心理的に追い詰めるような作りになっている。

(以下、一部ネタバレを含みます。)



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 大きく分けて「娘の発作とその治療」、「家族の崩壊」という二つの要素で構成されているこの映画、その両要素が絡みあって、ホラー的かつそれだけに留まらない奥行のある作品に仕上がっている。

 はじめに「娘の発作とその治療」に関して。この映画のトラウマ要素として有名な娘役の若命真裕子が発する叫び声が、まず強烈であり悲痛なことこの上ない。そして全身の痙攣で身体が弓なりに反っていき、ひきつるという演技の凄味があって、病状事態が「来るぞ来るぞ!」のホラー要素をふんだんに含んでいる。その上、この発作の症状として口が開きにくくなるというのがあるらしいのだけれど、発作のたびに舌を噛んで歯を食いしばるため口の周りが血だらけになる。これは大人の力でもこじ開けることが難しい。医者が「この子の前歯、乳歯それとも永久歯!?」「乳歯だろ!?また生えてくるからいいよね!」と咄嗟の判断で棒状の医療器具を娘の歯の間にねじ込むシーン、その後に折れた乳歯を三本取り出す流れ、ホラーではないけれども治療行為そのものがグロテスクさを帯びてくるし、大人数人がかりで暴れる子供を抑え込む様子は、日常に潜むリアル版『エクソシスト』の趣がある。そしてリンダ・ブレアの演技以上に恐ろしいのは、やはりオカルトではなく実際に存在する病状だからだろう。むしろこういった症例がホラーの原型であったんだろうなという再考すら促される具合。

 そしてこの作品の奥行を構成する「家族の崩壊」とそれに同調するように疲弊させられる視聴者に関して。当然ながら一番つらいのは娘なのだけれど、看病を続ける家族も並みの苦しみではない。自分の娘が助かるのかも分からない苦痛を伴う医療行為によって無残な姿に変わっていく様子を見守ることぐらいしか出来ない無力感、そして自分たちも感染しているのかもしれないという強迫観念的でノイローゼ気味の恐怖感。映画冒頭のシーンで耳につくのが、「こりゃ大変だよ、お父さん、よっぽど頑張ってもらわないとね」というような周囲の医師たちによる励ましなのだけれど、まさに家族共々の地獄が待っている。宣告の通り、上記の娘の発作+駆けつける医者たちによる辛い治療の連続に、いずれ母親役の十朱幸代が参ってしまい精神的に崩壊し始める。(短い間隔で何度も波のように押し寄せてくる発作と痙攣の様子が時系列を追って描かれる手法は危機感を煽るし、発作のたびに医師を呼びに院内を走り回る渡瀬恒彦の姿も視覚的にスリリングで、「家族」も視聴者も休まらない)。その後、果物ナイフを娘のベッド脇で振り回して「治療をやめて!!」と取り乱しもする母親は、しまいには娘の病室に入ることを拒絶し「(病室に)入るのが怖い」、「産まなければ良かった」とまで言い出すのだけれど、この親として失格と言わざるを得ない言葉に共感してしまうほどに観ているこちらも疲れていることを知るし、発作を怖く感じるような仕組みになっている。

 最終的に、尽力した医師たちの治療が功を奏して娘の発作の頻度は少なくなり、一般病棟へ移れるまでに回復、それと同時に家族も本来の結束を取り戻すことで、映画は幕を閉じる。感動を強引に促すようなシーンはない、ほとんどが無間地獄のような苦しみを淡々と描くことに終始していて、しかしだからこそ父親が「もし、お前が死んだら、お前が何も悪いことをしていないのに、こんな苦しい目にあって死んでしまうのなら、お前だけを愛してあやるからね、お前だけを。他に子供を作らないで、一生お前一人を愛してあげる。お前を助けてやれなかった俺の、せめてしてやれるのは、それぐらいだから、ね」と娘の手を握って心の底から呟いたような独白に、こちらは涙せずにはいられないのかもしれない。


追記
僕の好きな団地が冒頭で映るのだけれど、これがまた立派な団地で良い。あと、新旧問わず病院の持つ独特な雰囲気も好きなので、建造物的な要素としてはかなり美味しい映画でした。

 
破傷風の症状(Wikipediaの項目より

破傷風菌は毒素として、神経毒であるテタノスパスミンと溶血毒であるテタノリジンを産生する。テタノスパスミンは、脳や脊髄の運動抑制ニューロンに作用し、重症の場合は全身の筋肉麻痺や強直性痙攣をひき起こす。この作用機序、毒素(および抗毒素)は1889~1890年(明治22~23年)、北里柴三郎により世界で初めて発見される。

一般的には、前駆症状として、肩が強く凝る、口が開きにくい等、舌がもつれ会話の支障をきたす、顔面の強い引き攣りなどから始まる。(「牙関緊急」と呼ばれる開口不全、lockjaw)


徐々に、喉が狭まり硬直する、歩行障害や全身の痙攣(特に強直性痙攣により、手足、背中の筋肉が硬直、全身が弓なりに反る=画像)、など重篤な症状が現れ、最悪の場合、激烈な全身性の痙攣発作や、脊椎骨折などを伴いながら死に至る。感染から発症までの潜伏期間は3日~3週間。

神経毒による症状が激烈である割に、作用範囲が筋肉に留まるため意識混濁は無く鮮明である場合が多い。このため患者は、絶命に至るまで症状に苦しめられ、古来より恐れられる要因となっている。


予後

破傷風の死亡率は50%である。成人でも15~60%、新生児に至っては80~90%と高率である。新生児破傷風は生存しても難聴を来すことがある。




映画データ
公開年月日1980/11/22
監督:野村芳太郎
出演:渡瀬恒彦 十朱幸代 若命真裕子 宇野重吉 中野良子 蟹江敬三 北林谷栄 





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コメント

  1. 一喜一憂 より:

    最近huluでも配信開始されました。何の気なしに見始めてしまってガクブル…。
    劇中の家族の住まいは葛西(江戸川区)と聞こえました。ロケに使われている病院は、建て替え前の聖路加国際病院です。