伊藤俊也監督『女囚さそり けもの部屋』:フラグへし折る斜め上の発想力

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女囚さそり けもの部屋

 シリーズ3作目にして伊藤俊也監督による最後の「さそり」となった本作。『キル・ビル』公開当時タランティーノ監督が梶芽衣子の熱狂的なファンであることが話題になったけど、最近だと園子温監督が『愛のむきだし』で「さそり」を大胆にフィーチャーしてました。その安定した怪作っぷりと斜め上を行く演出の数々で多くの映画人にオールタイムで愛され続ける「さそり」シリーズ、今回も色々な意味で面白すぎてツッコミ疲れを起こすこと必至。


 開始早々、電車内で権藤刑事(成田三樹夫)に見つかり手錠を掛けられてしまう松島ナミ=さそり(梶芽衣子)。さっそく監獄行きかと思いきや、なんとその手錠の片端が掛かっている刑事の腕ごとナイフでゴッソリ切り落として逃亡。切り取った血の滴る腕が手錠で繋がったまま宙をブランブラン舞うことをモノともせず、ひたすら全力で街を走り抜けるさそりのシーンで迎えるオープニング、その迫力たるや凄まじい!……というかいきなりフルボルテージかつ見たことももない演出に唖然とするしかない、このシーンだけでレンタル代のお釣りがくるというもの。

 その後、墓場へ逃げ込み墓石を使って手錠を削り壊そうとするさそり、そのただならぬ殺気と狂気に満ちた表情を娼婦ユキに見られてしまう。異様な雰囲気に包まれた墓場で両者が見つめ合うこと数分の割と長めのシーン(爆笑してしまいました)の後に、精根尽きて失神してしまうさそりをユキが助けることで、今回の物語が動き始めます。開始後10分もしないこの冒頭のシークエンスだけでも書きたいことが大量にあるのが、まず素晴らしい。



 この立ちんぼ娼婦のユキは金が必要なため、ヤクザにショバ代を払わずにマッチの灯りで自分の股間を照らし出し客を引っかけるという奇抜な商法でなんとか生計を立てています。マッチ売りの少女ならぬマ〇コ売りの少女としてたくましく稼いでいるわけなんだけど(ショバ代収めてなからヤル場所も墓場!)、それだけ必死に働く理由というのが工場の事故で「バカ」になった兄を養うためにというんだから泣けます。そして、女なら誰彼かまわずの兄にまで身体を求められ応じてしまうユキは、ついに身ごもってしまうことに。それでも「産みたい!」と宣言する彼女にショックを受けるさそり。『カムイ伝』にも色情狂の気狂い娘の相手をしてやる父親の話があったと思うけど、まあなんというかこの関係性は気持ち悪いの一言に尽きます。



 その頃、ユキと同じ一帯で働く別の娼婦が妊娠してしまい、その処理として赤線地帯の元締めヤクザが無理やりその娼婦をヤブ医者へ連れて行き中絶させたことで死亡、そこから本編としてのさそりの復讐劇が始まるんだけど、こうやって書いてみるとユキのための直接的な復讐では無かったりすることに気づきます。それでも、「身ごもった赤ちゃんは産みたい」と考える女たちの強い気持ちを蹂躙するような圧力全般に対するさそりの制裁という形にはなっているのかも。

 復讐劇自体は順調に進んで、ヤクザたちはどんどん刺殺されていきます。今回は出刃包丁でなく、あえてメスで。女たちの身体を切り刻んだこの呪いのイコンでお前たちも苦しみを知れ!という切れ味確かな演出。壊滅状態寸前にまで追い込まれたヤクザ組トップの情婦(李礼仙)はさそりとムショ仲間であった過去もあり、その怖ろしさを再認識、自ら警察に売春斡旋罪を名乗り出て自首することで警察の保護下に入ります。自ずと最終局面は警察vsさそりの構図となってくるのだけど、腕を切り落とされた権藤刑事は、どんな手段を使ってでもさそりを捕まえようと鬼畜化しているため、下水に潜伏したさそりの炙り出し作戦としてガソリンを注ぎ込んでタバコの火で着火するという刑事の鏡のような勇士を見せつけてくれます。



 当然のごとく生き長らえた不死身のさそりは、警察の一大捜索が落ち着いた後、何故か放火による実刑3カ月で刑務所に潜りこむという現実と幻想が入り混じったマジックリアリズムな荒技を披露(成田刑事しか彼女の顔を識別できないのか!?w)、収監されている李礼仙を恐怖のどん底に叩き落として、錯乱した彼女がちょうど覗き穴に立った成田刑事をさそりであると勘違いして首めがけて独房の中からピアノ線のようなもので絞めて殺すというエンディングを迎えます。

 映像の場面場面の画が持つパワーが不思議なほど強烈で、演出・脚本の発想力もいわゆる「フラグ」みたいな概念を全てへし折る突拍子もなさで凡庸な読みが通じないんだけど、実はその全てが予想を上回る形で達成されているような感じがしないでもない包容力があって……、とにかく僕はこんなミニ四駆ばりに切り抜きの多いマンホールを見たことが無い!と驚かざるを得なかったわけです、最高だぜ!






女囚さそり けもの部屋(1973)
監督: 伊藤俊也
上映時間 87分
製作国 日本
初公開年月 1973/07/29
ジャンル サスペンス


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