野尻抱介『南極点のピアピア動画』:日本人の感応力の高さ

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南極点のピアピア動画

 タイトルと表紙絵からお分かりでしょうが、ニコニコ動画と初音ミクをモデルとして扱ったSF小説。野尻抱介の著作は初だったので、ラノベ的な表紙絵に警戒しつつも、収録された4編を順繰り読んでいるうちに立ち上がってくる世界観にしっかり引き込まれて、最後は著者の想像力に感心させられる具合でした。個人的には最後の1編から、「日本人の許容する力」みたいなものが読み取れて思った以上に深い読了感がありました。まあ、前提知識としてニコ動・初音ミク界隈を知ってないと辛いし(解説は一応あるけど)、知っていてもネットスラングもそれなりに頻出なので嫌いな人は白けること請け合いでしょうが。


収録作品
「南極点のピアピア動画」 SFマガジン2008年4、5月号
「コンビニエンスなピアピア動画」 SFマガジン2010年2月号
「歌う潜水艦とピアピア動画」 SFマガジン2011年8月号
「星間文明とピアピア動画」 書き下ろし


 序盤はピア動と小隅レイを中心に、とりあえずその界隈の人間みんな巻き込んで宇宙関連のプロジェクトが推進されていくという話。理工系ネタがほぼ分からないので、「技術的にムリがある設定だろ!」みたいなことに突っ掛りは覚えなかったけど、全員が同じ方向に衝突することもなく首尾よく突き進んでいく感じには若干の違和感がありました。言ってしまうとちょい薄っぺらいしご都合主義なんだけど、まあ、作品テーマは「小隅レイのSF的可能性の探究」であって人間の苦悩・葛藤を描く純文ではないので、そこらへんは当たり前でしょうか。それに考えてみれば、描かれている各プロジェクトの参加者ってピア動の性質上、賛同者しか集まらないのは確か、争いが少ないことも矛盾ないとも言えます。とにかく、登場人物たちの内面的葛藤は少な目なものの、やっぱりエンタメとしてかなり面白いです。ズッコケ三人組みたいなワクワク感と、あとちょっと恋愛要素もあって……、こうやって書いてみるとやっぱり上手いんだなと。

 この4編、すべて同じ世界で起こっている事柄として連続性があって、最後の「星間文明とピアピア動画」では、小隅レイの現実世界への具象化へ至る世界が描かれてます。作中にある「ピア動技研」のタグ付された動画やプロジェクトは、多かれ少なかれ小隅レイを現実へと召喚することを夢見ているけれど、それは宇宙人によるオーバーテクノロジーによって実現してしまいます。で、ここで面白いのは技術的なハードルの薀蓄よりも、小隅レイが現実世界の人々にどう受容され許容されていくのかという部分で、これって日本人のある意味で柔軟な感応力がうまく描かれているなと感じました。

 作品の内容からは離れるけど、日本人の美徳の一つに新しいものや他者の文化にすぐ飛びつく力があると個人的に思っていて、こういったことが可能な態度の基本には興味を抱いたり関心する能力の高さがあるんだと考えています。日本に侵入してくる文化とか移民にはかなり容赦ないけれども(笑)。でも海外の人がいかにも喜びそうな日本の文化的にちょっと特異でガラパゴス的な感じというのは、色々なものを吸収したり許容出来てこそ成せる技で、その根本には関心する力があるからこそなんだろうと感じます。身近な例だけど、長蛇の列を作ってラーメン屋とか外食レストランに並ぶ行為っていうのも、そこだけ見ると流行りモノに振り回される「スイーツ乙な人々」と同種のものを感じるわけですが、積極的に関心を持って何かに接しようとする人々がそれだけ多い事実に、日本人の持つ良い面としての気質も隠れているんじゃないかと肯定的です。作中の実体化した小隅レイが人々に受け入れられる過程にも、ピア動住民+運営の「面白いから拡散しようぜ」的な肯定の仕方が大きな推進力となっているわけだけど、そこに日本人的な柔軟に関心できる力や感応力といったものを見た気がしました。





南極点のピアピア動画 (ハヤカワ文庫JA)

ユリイカ2008年12月臨時増刊号 総特集=初音ミク ネットに舞い降りた天使

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